『藝術資料』編集後記 第1期第10-12冊
第1期第10冊「松」 昭和11年12月
藝術資料も本冊を以て十冊目となり残す処二冊となりました。松は古来文献も相応に多く、名作として挙げるものも多々ありますので全くその取捨に迷う位、そこで口絵の写真は今回に限り中止としてその代り作品を増しました。
原色は浜松屏風の予定でしたが都合により雪舟の花鳥屏風松の片双に変更しました。ただ編輯上の都合で他意はありません。目下梅の印刷着手、更に植物篇最終刊「春の花」を執筆して居ります。
本冊校正中又も私の身に不幸が重なりまして、今年八十一歳になる母が郷里埼玉県に於て死去いたしました。急遽帰郷いたしましたが臨終に間にあわず、葬儀万端を終えて帰京いたしましたので校正その他非常に手遅れになったこと何とも申訳ありません、しかし、こうした思い出深い年もやがて暮れ、新しい年を迎えねばならなくなりました。
新年を迎えて更に捲土重来この資料の完成を期し次の計画に着手したいと存じます。何卒大方の切なる御同情と御声援を切望する次第であります。(編者)
年末となりましたので、上旬からまた集金人を伺わせて居ります。御手数御面倒ですが何卒お留守でもおわかりになるように御申置きのほど切に願い上げます。(会計部)
第1期第11冊「梅」 昭和12年1月
希望に輝く昭和十二年の新春を迎えるに方り、謹んで会員諸氏の御健康を祈り、併せて本資料の為め益々御声援御同情を冀う次第であります。
願いますに昨年は私に取っては終生忘れる事の出来ぬ年でした。本資料の事業漸く緒に就こうとするに当り糟糠の妻を喪い、ついで僅か一ヶ月を隔てたばかりで又老母をあの世へ送らねばならぬ運命に遭遇し、一時は全く茫然自失の有様でした。
しかし何時までかくてあるべきではありませんので、更生一番、ここに新しき年を迎えるに当り、元旦早々、本資料第二期の第一冊の編纂に着手しました。即ち鳥類篇第一冊『鶴』です、大に飛躍したいという希望から鶴を択びました。
植物篇もあと一冊春の花で十二冊完了しました。既に編輯は完成して目下印刷の準備中であります。どうか末長く御声援を願います。
なお、新春からこの資料の外に、続刊の藝術叢書中、天象と藝術の完成を急いでいます。今年春には脱稿することとなりましょう。続いて山水と藝術に着手する計画を立てて居ります。
新年を迎えるに際し、各方面から賀状を頂きましたが、喪中のこととて、一切御遠慮させて頂きました何卒御諒承をお願します。
第1期第12冊「春の花」 昭和12年2月
満天下の識者から非常な御賛同を忝うしました藝術資料も本冊を以て愈々第一期植物篇を完結、第二期鳥類篇に入り、三月には『鶴』をお手許にお届けする運びとなりました。植物篇の続刊せよとの御注文もありましたが、いろいろの事情からご予定の通り鳥類篇に入ることに致しました。
鳥類篇は植物篇よりは材料も少なく殊に藝術に扱われているものは種類が偏していて非常に杜撰なものもありますが、極力奔走して資料の蒐集に努力しています。何卒切に大方の御声援をお願します。
なおこの機会に於て新しき会員の申込を歓迎します。その為め内容を略記してパンフレットをも印刷する筈です。何卒御利用下さいまして、一名でも多くの会員が得られますよう、御後援を願います。
私の私淑しています先輩の中にはこの事業の為め社団法人のある有力な団体に紹介してやろうとまで申出でられた方もあります、その御厚志に感謝している次第であります。
鳥類篇は第一冊が鶴、第二冊を春の鳥として、本冊、春の花と同じような編輯方法によることにいたしました。
なお鳥類篇の表紙意匠は西澤笛畝画伯が揮毫して下さることになりました。如何なる粧いとなって現われますか、会員諸彦と共に楽しみにお待ちしたいと考えます。それから鳥類篇に就いては口絵の材料につき先ず山口蓬春氏を煩わすことが多大です。ここに謝意を表します。